ちょい昔、こんな事がありました。
あるデパートの、海外旅行カウンターでした。
青々とひろがる海、そびえ立つアルプスの山々、荘重な中世の城・・・・・・。
色鮮やかなパソフレットが並ぶ中では制服姿の女性たちが、渡航手続きの説明や、ツアーの予約の確認などで忙しく働いていました。
「書類の書き込み、漏れていたわよ」席に戻ると、先輩の声。
きつい調子にびびるわたし。
あっ、そうだ。
書き入れようと思っていたのです。
手元の書類を片付けながら、追い打ちをかける。
「あなたがいない間に、お客様がいらっしゃって困ったのよ。しっかりしてよね、社員なんだから」
30代の後半だろうか、この先輩。
社員ではない。
「パートさん」。
だが、このカウンターでは経験が7、8年ともっとも長くて、ボス格でした。
「すみません」体を小さくして、か細い声で答え、自分の席に着いたのです。